2025年の第78回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞したサスペンススリラー『シンプル・アクシデント/偶然』を観ました。

یک تصادف ساده/Un simple acciden 2025年仏/イラン/ルクセンブルク 103分
ストーリー
かつて不当に投獄されたワヒドは、ある偶然の事故によって、人生を奪った残忍な義足の看守と出会う。ワヒドは咄嗟に男を拘束、荒野に穴を掘って埋めようとするが、男は「人違いだ」と言う。実はワヒドは、看守の顔を見たことがなかった。男は、本当に復讐相手なのか?一旦復讐を中断し、看守を知る友人を訪ねるが・・・。
キャスト
ワヒドにワヒド・モバシェリ、フォトグラファーのシヴァにマルヤム・アフシェリ、エグバルにエブラヒム・アジジ、新婦ゴリにハディス・パクバテン、新郎アリにマジッド・パナヒ、ハミドにモハマッド・アリ・エリヤスメール、書店のサラルにジョルジュ・ハシェムザデー、エグバルの娘にデルマズ・ナジャフィ、エグバルの妻にアフサネ・ナジュムアバディなど。
監督は『人生タクシー』のイランの巨匠ジャファル・パナヒ。
ネタバレ感想
反体制的な活動を理由にイラン政府から映画制作を禁じられながらも活動を続けるパナヒ監督。
2010年から反政権を理由に禁錮6年の有罪判決を受け、映画制作や海外渡航が20年間禁止されていたが、2023年に海外渡航禁止が解かれて着手したのが、自身の二度の投獄経験と同房で出会った人々のリアルな声から着想を得た本作。
偶然聞いた義足の音、次の瞬間ワヒドは義足の男の跡をつけ、男の家を突き止め監視。翌朝出かけた男を拉致し、穴を掘って埋めようとする。ここでようやくワヒドの行動の理由が分かる。彼はかつて不当に投獄され、拷問した看守が義足で、歩くたびに同じ音をさせていた。一気に蘇ったトラウマ。
しかし拉致した義足の男は身に覚えがないと言い、ワヒドも目隠しをされていて看守の顔を見ていない。我に帰ったワヒドは、男が看守エグバルかどうかを確かめるため、かつて同じように投獄された仲間を訪ねる。それぞれ深い傷を受け、ようやく過去を忘れ再出発しようとしている矢先に訪れたワヒドを一度は拒絶するが、次第に過去の恨みを思い出す。
ワヒドは同じ様に不当に逮捕された人を3人訪ねますが、みんな目隠しをされていて誰も看守の顔を見ていない。音・声・匂い・体型などで判断しようとするのが、ユーモラスだけどまったく笑えない。
みんな必死に過去を忘れる努力をして、ようやく日常を取り戻したのに、どんどん当時のことを思い出してトラウマに苦しみます。前へ進むためにも決着をつけようとしますが、いよいよという時、男の娘から妊娠中の母親が倒れたと電話があり、結局男の妻と娘を病院へ運び、無事出産。
ワヒドは病院の費用や祝金なども払い、呆れたハミドや結婚前夜のゴリとアリは帰りますが、ワヒドとシヴァは再度男を詰問します。
一番理性的に思えたシヴァの糾弾。心からの叫びが凄まじく、とうとう男は看守エグバルだと認め、上に逆らえなかった自分の弱さを吐露します。突き止めたことに満足したのか、謝罪を受け入れたのか、エグバルを殺さず去る二人。
病院の費用をワヒドのカードで払ったため、ワヒドの所在は分かるはずで、どうするのかと思っていたら最後に、背後から聞こえる義足の音、振り向かないワヒド。遠ざかる義足の音。
エグバルが、ワヒドが払った出産費用を置いて帰ったと思いたい自分は甘ちゃんなのか?
世の中には想像もできない重荷を背負った人が居ることが、ずっしりと後を引きます。
それでも、拷問した相手と同じに成り下がらないように、自制心で耐えるのが、辛い。
卑怯な相手に正義で立ち向かえるのか。
まさに今の政治の問題点でもあります。
2025年12月、アメリカで本作のプロモーション活動中だったパナヒ監督は、明確な容疑が開示されないまま、イスラム革命裁判所から<反体制プロパガンダ活動を行った>とする欠席裁判での懲役1年に加え、2年間の渡航禁止、さらに政治・社会団体および派閥への参加禁止の判決を受けました。
イスラエルも許せないけれど、イラン政府も擁護は出来ないですね。



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